劇場版アニメ『オーバーロード 聖王国編』感想
『オーバーロード 聖王国編』を、公開3日目に観てきました。
ちなみに、入場特典小説『カッツェ平野の幽霊船・上巻』は、当時の時点で品切れ。下巻のために無理矢理リピートする動機がなくなったので、良しとしましょうか。
結構面白かったですし、「アニメで動くあのシーンを観たい!」と思う原作勢には良い作品だったと思うのですが、小説未読の方には、カットシーンが多くて分かりにくい・物足りない作品となってしまっていたのではないかな、というのが、私の感想です。
地上波放送で最もネックになりそうな、そして読者の心にもの凄く嫌な気持ち、あるいは昏い快楽をもたらした問題のシーン、「聖棍棒」をアニメ化してくれたことは、評価に値します。
もうちょっと尺を割いて欲しかった気持ちもありますけどねー。
ネイアかわいい。
作品の総評
原作ファン、ここまでのアニメ化箇所についてきた視聴者なら、観に行って損はないと思います。
一部、「オーバーロードという作品の入門にもおすすめ」といった記事を見かけましたが、それは正気の沙汰ではないと思います。
一般的な勧善懲悪の枠に収まってくれないあの作品は、好みが分かれますし、劇場版は単体で見るにはあまりにハイコンテクストです。
ここまでの作品を観ていない方は、よほど冒険する気がないかぎり、オススメできません。
あらすじ
VR没入型ネットゲーム『ユグドラシル』のプレイヤー、鈴木悟は、サービス終了時から、ゲーム内アバターのままでファンタジー異世界に転移してしまった。
骸骨姿の魔法使い「不死の王(オーバーロード)」のジョブを持つ者として。
悟はアインズ・ウール・ゴウンと名乗り、元NPCであった部下も含めた圧倒的な戦力で、一つの国を構えるに至っていた。
そして今回のお話は、アインズ・ウール・ゴウン魔導国から少し離れたローブル聖王国が舞台となる。
アインズ・ウール・ゴウンの世界征服の一歩として、「魔皇ヤルダバオト」を名乗るアインズの部下、デミウルゴスが、ローブル聖王国を蹂躙する。
国のトップである聖王女カルカを失い壊滅状態となった聖騎士団は、ヤルダバオトへの対抗戦力として、アインズ・ウール・ゴウン魔導国の戦士、モモンに救援を求めるのであった。
シリーズ未読者向けの軽い解説(シリーズ未読者にはネタバレ)
この作品は、壮大なマッチポンプのお話です。
敵キャラである「魔皇ヤルダバオト」の正体は、アインズ・ウール・ゴウンの幹部であるスーツ姿の悪魔、デミウルゴス。
圧倒的強者として世界各国を蹂躙し、最後にはアインズに討ち果たされる(設定を作り上げる)ことで、アインズ・ウール・ゴウンの世界征服を進めることを狙っています。
完全にマッチポンプです。
聖騎士たちが助けを求めた「漆黒の剣士モモン」の正体は、アインズ・ウール・ゴウンその人。
骸骨姿の恐るべき魔法使いアインズと、アインズへのカウンターとして人類を守護する鎧の剣士モモンは同一人物。
酷いマッチポンプです。
結局、救援を求められたモモンではなく、アインズが聖王国に救援として赴くことになるのですが、アインズの内心は「ヤルダバオト討つべし」どころか、「ヤルダバオトを演じるデミウルゴスは、どんな世界征服プランを考えてるのだろう? 自分が変な行動をしたら邪魔しちゃうかな、ドキドキ」です。
……酷いですね!
みどころはやっぱり「ネイアかわいい」
最大のみどころ「ネイアかわいい」
本作のヒロインは、聖王国の聖騎士団に所属する見習い騎士の少女、ネイア・バラハです。
経験や戦闘力は周囲に劣るものの、非常に強い義務感に従う高潔な女の子です。
国の英雄を父に持ち、一人前の聖騎士よりも優れた索敵能力を持っていることから、聖騎士団の旅の斥候を務めていました。
そして、常に乱心中の聖騎士団長レメディオスから、常に無理難題とパワハラを受け続ける不憫キャラ。
無理難題の一環として、救援に赴いたアインズのお付きとして侍ることになり、アインズの寛大さと強さに心酔していくことになります。
「人を殺していそうな目つき」として設定されていますが、キャラクターとしては充分に魅力的な範囲でデザインされており、パワハラに負けず健気に頑張る姿、アインズに尻尾を振らんばかりに付き従う姿は多くの読者の心も射止めました。
ネイアは騎士なのに剣より弓が得意という変わり種であり、アインズから弓「アルティメット・シューティングスター・スーパー」を託されます。
アインズは「見せびらかして、魔導国の技術力を宣伝して欲しい」と考えていましたが、ネイアは「魔導王に託された宝を、周りに見せびらかしたり手の内を明かしたりするなんてとんでもない」と真面目に考えていました。
敵(アインズの部下)がわざとらしく「その武器は、アルティメット・シューティングスター・スーパーではないか!(棒読み)」と技術力宣伝をしようとしているのに、「そんなんじゃない!」とネイアが拒否し続ける姿は、おかしいやらかわいいやら。
ネイアを演じる声優は、『ぼっち・ざ・ろっく!』後藤ひとり役で圧倒的に知名度を上げた、青山吉能さんです。
そういう事前知識もある状態で観ているので、おどおどしている様子が余計にかわいく見えます。
重要なみどころ「聖棍棒」
冒頭のみどころとして外せないのは、「聖棍棒」のシーンでしょう。
ヤルダバオトの侵略に対し、美貌の聖王女カルカと、聖騎士団長レメディオス、神官長ケラルトという、国の最高戦力である美女3人が立ち向かったシーン。
レベルが80~100のヤルダバオトに対して、英雄クラスでもレベルが30程度の現地人では相手になるわけもなく、聖騎士団は一蹴されます。
しかし、単に聖王国戦力を倒す、殺すで終わってくれないのがオーバーロードのいやーな魅力。
炎の巨人の姿になったヤルダバオトは、美貌の聖王女カルカを拘束するだけにとどまらず、足首を掴んで「武器」として振り回します。
美しかった顔面はボコボコになり、それ以外も脱臼・骨折・打撲。
聖王女と聖騎士団は互いに守るべき対象を傷付けることを強制され、徹底的に尊厳が陵辱されます。
ファン曰く「聖棍棒」。
あのシーンが嫌で小説を読むのをやめた人は、まともな神経をしていると思います。
でも、あのシーンこそ大好きという人も、かなり多いはずです。
聖王国編の地上波アニメ放送が難しいと危ぶまれていた大きな原因のあのシーン。
シーケンスは大幅短縮されていましたが、アニメ化してくれただけで英断と思いましょう。
パワハラ描写は、大幅カットでマイルドに
上記のシーンで敬愛する聖王女と、妹である神官長カルカを失った聖騎士団長レメディオスは、「どうしようもないレベルで馬鹿だが戦闘では有能な女」から、「戦闘では有能だがどうしようもないレベルで馬鹿だし、浅慮を振り回してパワハラしまくる女」にクラスダウンします。
アニメ版を観てから原作小説を読み返しましたが、原作ではもう、パワハラがひどいひどい。
ネイアに対してやることなすことケチをつけ、「王国貴族への救援要請を取り付けられないのは努力が足りないからだ(騎士見習いの小娘が、魔皇勢力への対抗などという支援を取り付けるのは、普通に無理)」だの、旅の間、ネイアが必死で行っていた索敵・斥候の仕事の価値を侮辱するだの、読者のヘイトを稼ぐ描写が山盛りでした。
「常人の500%の成果を出せ! それができないなら努力が足りない!」と、半人前の相手に言い続けている感じ。
なんでも、あのパワハラ描写のモデルは作者の実体験だとか……。
「うちのネイアをいじめるな!」と感じた読者は山ほどいることでしょう。
尺の大幅カットの関係で、パワハラ描写の多くは消えました。
原作が「パワハラしかできない、いけすかない無能クソ女」だったとしたら、アニメの描写は「かなり短気で、超越者相手には役に立てない、不憫な美人のお姉さん」くらいには印象が緩和されたのではないでしょうか。
最後に
改めて、ファンは一見の価値がある映画だと思います。
そろそろ特典小説『カッツェ平野の幽霊船』は下巻も手に入らなくなるころかもしれませんが、興味がしる方は観に行かれてはどうでしょうか。
映画の感想や独自の意見がありましたら、コメント欄やXでのリプライをください。
また、記事が面白かったら、Xでの拡散をお願いします。
(今井士郎)
コメント